掌編小説:文通図書館

 どうしよう。
 ちょっと私には手に追えない小説を見つけてしまった。
 目の前の棚には、「同性愛の狸」と書かれた小説が他の歴史小説に紛れ込んでいた。
 なぜ学校の図書館にこんなものがあるのだろう。
 正直意味不明だ。
 歴史小説の棚にあるという点もまるでわからない。
 学校の図書は、先生たちが選んでいると思うけど、この本をここに置いた先生は、一体なにを思って「同性愛の狸」なる小説を歴史小説の棚に置いたのだろう。


 あまりに意味不明のせいか、逆に興味が湧いてきた。
 私はついその本を手に取ってしまった。

 本を開いて見ると、あるわあるわ。この本を借りていった生徒たちの名前がずらずらと書かれている。

 困ったことに名前の中には、クラスの中でも特に仲のいい友達の名前があり、今度からあいつのことを、どういう目で見れば良いのかなと、ちょっと悩ましい気持ちになってくる。

いや、それどころか、まさかあいつ、私に変な好意とか向けてないだろうな。

 想像だにしていなかった考えに戦慄しつつ、私は「同性愛の狸」の頁をめくった。本の内容は、意外なことに歴史小説でも同性愛小説でもなんでもなく、動物の同性愛についての学説だった。

 というか「同性愛の狸」というタイトルのくせして、狸の要素は薄く、本の冒頭に作者が狸好きであることを書いている以外は、ほぼその他の動物、主にボノボなんかの動物の同性愛が書かれている。


 ……なんでこの本の作者はタイトルに「同性愛の狸」なんていうものをつけたのだろうか。確かにインパクトはあるかもしれないが、中身とタイトルにほぼ関連性がなくて、タイトル詐欺と言ってもいいだろう。


 だが、それよりも私の興味を抱いたのは、本の中身そのものではなく、ページの端々に書かれたこれまでの読者の想いの丈だった。


 どうやら、私が想像していたよりもはるかに、この学校では同性同士の恋愛が盛んだったらしい。

 各ページの端には、この本を文通代わりに恋する相手に想いを綴った文章が書かれている。さしずめ交換日記代わりの本といったところだろう。それも一人や二人ではなく何人も。

 この学校は特に生徒同士の交際には厳しいから、昔はこういうものを使っていたのだろう。本自体よりも、そちらの方に興味を抱き、私はついつい読みふけってしまった。

 ある意味、これだけ本の借りてがいるのは納得だった。

 本自体は妙なものだが、その借り手たちの物語はとても面白いものだった。
 私に彼らのような胸を焦がすような物語はないけれど、人と人との結びつきをひっそりと懸命に行なっていた彼らには、言葉を残したくなった。

 私はページの端に、彼らの恋物語への感想を書くことにした。


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三度の飯より物語が好き! シナリオ制作・小説執筆などを自主的に行なっています。 ブログには自主制作の小説・シナリオ、その他書籍の感想などの記事を書いていくつもりです。